Kamiインタビュー

須藤元気が小説に初挑戦!!
格闘技の現役を引退してから活躍の場を文筆の世界に移した須藤元気。内容的にもセールス的にも好評だった前作までのエッセイとはうってかわって、最新作は小説に初挑戦! 変幻自在のトリックスターは、原稿用紙の上でも踊り続けるのか!?聞き手/松下ミワ 撮影/梅木麗子
じつを言うと、僕は学生時代はまったく勉強しなかったんですよ
須藤 じつは、表紙が今日できたんですよ(といって、新刊『キャッチャー・イン・ザ・オクタゴン』の表紙を披露)。
――おお! これはまた女性らしいさわやかなデザインですね。
須藤 ええ。マーケットは女性が動かしてますから。それに、装丁のデザインをしてくださったデザイナーさんにはけっこう細かいところにも気を使っていただいて。「・」の部分もよく見ると8角形になってるんです。
――あ、ホントですね。しかし、このタイトルがやはり一番始めに気になってしまうんですが、ズバリ『キャッチャー・イン・ザ・ライ(ライ麦畑でつかまえて)』からの引用なんですか?
須藤 じつは、けっこう今回はタイトルをどうしようか凄く迷いまして。いままで随筆だったので、僕の中でイメージがポンポン浮かび上がってたんですけど、小説ともなるといままでの一風変わったタイトルは合わないなと思ったんです。
――元気さんはこれまで6冊の本を出版されてますが、小説というのは初めてですね。
須藤 だからタイトルは凄く迷ってて。でも、迷ったときは無意識に語りかけようと思って30分ぐらい瞑想してたんですけど、パッと目を開けて僕の本棚を見たときに『キャッチャー・イン・ザ・ライ』があったんです。そこでひらめきまして、「これは、『キャッチャー・イン・ザ・オクタゴン』がいいな」と思って名づけました。
――そもそも、今回元気さんが小説を書こうと思ったのはきっかけはなんだったんですか?
須藤 一応現在、作家ですからね。作家として活動してて、もう書くこともずいぶん慣れてきましたし、やはりそろそろ勝負できるだろうということで何か一つの区切りかな、と。
――では、作家としての集大成というか、実力を試してみようという感じなんですね。
須藤 ええ。なので、これじつは勝負を懸けてる本なんですよ。やはり作家として7冊目ということで、ここで評価が分かれると思うんです。『風の谷のあの人と結婚する方法』をはじめ、いままで書いてきた随筆はやはり小説とはまったく別のものなので、「随筆はいいけど、小説は……」という感じにはならないように気を使いましたね。
――格闘家出身にしてこれだけ本を書かれてるというのは驚きなんですが、そういった文章力は才能の部分をのぞくと、どういったところで磨かれてきたんですか?
須藤 じつを言うと、僕は学生時代はまったく勉強しなかったんですよ。学校教育に馴染めなくて、レスリング推薦で進学したりして。でも、20歳の頃にあるきっかけで本に目覚めまして。アメリカ修行時代に付き合ってたミッちゃんという人がかなりの読書家だったんです。
――その方に影響されたということですね。
須藤 はい。そこで「いままでなんで僕は本を読まなかったんだろう」と思ったんです。なので、20歳ぐらいから1日に3冊ぐらい読むようになったんですよ。
――そんなに!
須藤 そうすると、だんだん書きたくなったし、書けるようになってきたんです。いろんな文章を読んできたので、文章が書けるようになったのはきっとインプットし続けてきたからじゃないかなって。
――その点、小説を書くということで影響された本ってありますか?
須藤 小説というより、最近はノンフィクションを読むことが多いんですよね。もちろんたくさんの本は読んできたんですけど、あえて言うとすれば、司馬遼太郎さんが書かれる小説の、闘うシーンの描写が凄くいいと思いますね。凄く臨場感があって血がたぎるというか(笑)。でも、闘うシーンに関しては僕も今回けっこう自信を持って書けたと思います。

ファイターや格闘技イベントの舞台裏を書いているので、格闘技ファンにとってもおもしろいと思います
――今回の本は青春格闘小説ということですから、元気さんの格闘家としての経験を活かされてるということですね。
須藤 これは、経験者しか書けないというか。でも、小説を書こうと決めたとき、初めはちょっと恋愛小説を書いてたんですよ。(笑)。
――え、そうなんですか。
須藤 恋愛小説だと僕とのイメージのギャップがあっていいだろううなと思って。でも、僕の過去のダメダメな恋愛観ではとても、とても。自分の経験とはギャップがありすぎて書けませんでした。基本的に、文章を書くときというのは頭の中に映像を作るんですね。それを文字で伝えるので、細かい描写が必要になるんです。頭に映像がないと描写できない。でも、恋愛小説だと僕の場合は……下心だけで終わってしまうと思ったんで(笑)。
――そこはクールになりきれない、と。
須藤 途中、いろんなものを書いたんですけど、結局格闘技の話に落ち着きました。作家って文章を各前に取材したりするじゃないですか。たとえば僕が警察の本を書こうとしても、警察の取り調べがどういうものなのかわからないから書けないんですよ。取調室のタバコが臭いとか、シミが付いてる壁とか。そういう細かい描写をすることによって臨場感がある文章になると思うんですが、そこが抜けると途端に安っぽくなる。ですから読んでる人は“片目が見えない状態”だというのを頭に置くことが大事なんです。
――なるほど、なるほど。
須藤 だから、格闘技を題材にして、練習はどういうものなのか、試合会場はどういう空気なのか、舞台裏を知ってる僕だからこそ書けた本だと思いますね。だって、実際に試合会場に向かうバスが2台に分かれてるとか、そのバスも10分のインターバルをもって出発・到着するようにしてるとか、そういうのは一般の方は知らないですよね。
――また、事前におうかがいしたあらすじによると、一人の青年がアメリカの格闘技イベントに挑戦するというお話ですが、これは元気さんのアメリカ修行時代の経験をもとにストーリーが展開されるんですか?
須藤 僕が経験したことは当然踏まえてます。とはいっても主人公はもちろん僕じゃないですし自叙伝ではないので、あくまでも客観的に書きました。やはり小説というのは自己愛をいかに消すかが大事ですからね。自己愛が入ったらダメなんですよ。主人公がカッコよくなってしまうと、読んでる人が冷めてしまいますから。
――逆にダメなヤツのほうが愛せますね。
須藤 でも、自叙伝っぽいのはだんだん主人公がカッコよくなりがちなんですね。なので、いかに自分のナルシズムを抑えるかというところで苦労しましたね。
――そのへんの悩みは、いままでの随筆とは違う葛藤ですよね。
須藤 そうですね。随筆は自分が思ったり体験したもの、僕のパーソナリティで勝負するものですけど、小説はキャラクターをある程度固めて、カッコいいヤツ、マヌケなヤツ、ヒロインはどうするかって感じでキャラを決めないとダメなんです。だから、いい小説はマンガのようにキャラクターがハッキリしてるんです。そういう部分においても『キャッチャー・イン・ザ・オクタゴン』もキャラをハッキリさせて、いままで小説を読んだことがないような人でも読めるようなアプローチになってると思います。
――その一方で、ストーリー的には格闘技好きの人も入り込めるような感じなんですね。
須藤 繰り返しになりますが、ファイターや格闘技イベントの舞台裏を書いているので、格闘技ファンにとってもおもしろいと思います。普通、選手インタビューにしても、言えることと言えないことってあるじゃないですか。やはりプロなので自分自身をぶっちゃけ話さないんですよね。「本当はビビってました」とか言わないじゃないですか(笑)。
――仮面をかぶっているところがある、と。
須藤 だから暴露本ではないですけど、実際のことがわかる部分があると思いますよ。
――元気さんが現役だった当時の話はノンフィクションとしては書けないけど、小説だったらその体験を活かしてアレンジできるわけですもんね。
須藤 もちろんそこにはフィクションも入ってますしね。
――最後に、表現で一番苦労したのはどういう部分ですか?
須藤 やっぱり女性の言葉使いかな。
――そこは恋愛小説の難しさにも通じるのかもしれませんね(笑)。
須藤 女性の心理というのはなかなか。一回女性になろうと思って試みたんですが、失敗しました(笑)。
――将来的には元気さんの恋愛小説もぜひ読んでみたいですけどね。
須藤 そうですね、考えてみます(笑)。
【08年10月31日/都内・ELEMETS BARにて収録】

