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金沢“GK”克彦のこちらプロレス村役場ドットコム

1961年12月13日、北海道帯広市出身。青山学院大学卒業後、新大阪新聞社に入社。“I編集長”こと井上義啓氏のもとで『週刊ファイト』編集部でキャリアをスタート。その後、日本スポーツ出版社『週刊ゴング』編集部へ。99年から04年まで編集長を務める。05年に同社を退社。以後はフリーランスとして幅広く活躍中。テレビ朝日系『ワールドプロレスリング』やサムライTV等で解説を務めるほか、『kamipro』でも執筆。著書に『風になれ』(東邦出版)、『力説』(エンターブレイン)。通称GK(=ゴング金沢)。

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12月8日更新

TAJIRIの毒霧に戦々恐々のワープロ放送席!?
1.4の中邑Vs高山戦は必然の邂逅マッチである


因縁の棚橋vsTAJIRI戦へ、実況チームにとってはこの一戦がもっとも緊張を強いられた


新日本プロレス年内最後のビッグマッチ、12.5愛知県体育館大会をテレビ朝日『ワールドプロレスリング』の放送席からしっかりと見届けてきた。観客数は満員の8,500人(主催者発表)。入場ゲート用に2階席の一部を潰していたものの、会場はきっちりと埋まった。無論、ラインナップは両国級なのだから、これぐらい入ってもらわなければ困るし、1.4ドームに向けて勢いもつかないだろう。それに今大会は、前回のG1クライマックス・名古屋大会(8.13)からの流れをきちんと踏まえていたから、ストーリーも観客のノリも出来上がっていた。

G1の公式戦では中邑真輔vs永田裕志が組まれていたし(中邑がボマイェ一撃で勝利)、メインでは棚橋弘至vsTAJIRIの遺恨カードが実現。ここで、TAJIRIは放送席の山崎一夫さんに花束を投げつけ激高させたかと思えば、試合では絶妙のタイミングでグリーンミストを放ちバズソ―キックからフォ―ル勝ち。会場が大ブーイングに包まれるなか、「愛してま〜す!」と叫んでから、菅林直樹社長にも毒霧を浴びせるなど、やりたい放題。その他、杉浦貴とスーパーストロング・マシンがついに初遭遇を果たし、「おい、マシン、お前は平田だろ!」、「俺は平田じゃねえよ!」のやり取りに会場が大爆笑というシーンもあった。じつは、この8.13名古屋大会こそ、09年度、私が生観戦してきた様々な大会のなかでベスト興行なのである。

さて、今大会の目玉はやはり後半のシングル3連発。まず、後藤洋央紀の完敗(11.8両国)を受けての田中将斗とのリベンジ戦。今回も凄まじい肉弾戦を展開した。名勝負製造マシンと言われる田中は、過去、中西学、金本浩二、永田、真壁刀義、棚橋らとのシングル戦をすべて名勝負の域まで高めてみせたが、もしかしたら後藤が一番手の合う相手なのかもしれない。生来の人の良さから(?)相手に合わせてしまいがちの後藤にとっても、反則攻撃、場外戦などを容赦なく仕掛けてくる田中はストレートに向かっていける相手となる。後藤の大逆転勝利を呼び込んだスライディング・ラリアット、昇天3連発はじつに説得力があった。それにしても、いまや田中将斗は新日本マットに欠かせない存在になりつつある。

そして、因縁の棚橋vsTAJIRI戦へ。実況チームにとってはこの一戦がもっとも緊張を強いられた。なにせ、前回、花束を投げつけられガチで怒り狂った山崎さんは気合満々。もう実況の打ち合わせ前から入念なストレッチ運動を始めているのだ。「また仕掛けてきたら行ちゃいますよ。治療院の院長がぎっくり腰でもやったらシャレにならないから準備しておかないと」と言いつつ、かなりその目は真剣だった。おまけに、ゲスト解説にはこれまた遺恨渦巻く菅林社長がつく。こうなると放送席が毒霧の被害に遭う可能性は大とあって、実況担当の吉野真治アナウンサーなどは、スーツ&Yシャツの着替え一式を用意したうえで、しっかりと貸衣装で実況に臨んでいた。ここでセコイ(?)私はすでに数日前から、TAJIRIに接近して情報収集に励んでいた。

「TAJIRI選手のミストはけっこう横のほうにも飛び散るのかなあ?」
「あ、大丈夫ですよ。狙いどおりにいけば、周りには飛ばないので。金沢さん、当日は解説ですかあ? フッヒッヒッヒッ……」

次回のIWGP防衛戦は1.4東京ドーム。相手はどうやら高山善廣で決まりそうだ


なんとなく、この笑いが気になる。当日、会場の片隅で階段昇降運動を延々と続けるTAJIRIと目が会った。そばに寄っていくと、「今日は一応気を付けてくださいね、フッヒッヒッヒッ……」と意味深な笑み。放送席の並びは、リングに向かって右から吉野アナ、菅林社長、山崎さん、柴田惣一さん(東京スポーツ)、私だから、ここまで被害は及ばないだろうと思いつつも、不測の事態に備えて護身用に大会パンフレットを手もとに用意しておいた。そして突然にそのシーンがやってきた。事あるごとに放送席に目を走らせてニタリと笑うTAJIRIがついに菅林社長の目前へ。ここで背後から棚橋がTAJIRIの口を塞ぎながらはがい絞め。怒りの菅林社長は棚橋にうながされ痛烈な張り手を叩き込んだ。その殴られた勢いでTAJIRIは左の上向きにグリーンミストを噴射した。結果は無惨……用意周到の吉野アナと標的・菅林社長はまったく毒霧を浴びることなく、山崎さん、柴田さん、私、さらに篠原プロデューサー、メ―テレ(名古屋テレビ)のプロデューサーと左並びの5人が被害に遭ってしまった。

もっとも私は、TAJIRIが近づいてきた瞬間にイスを下げてパンフを用意していたので、ジャケットもシャツも無事で手と顔とパンフ、資料がところどころグリーンに染まった程度。それでも手に付着した液体は2〜3度洗っても取れなかったから、やはりその威力(?)は抜群なのだ。まあ、これが放送席の闘い。肝心の試合は勧善懲悪を地でいく結末でありながら、両者の確かなテクニックが交錯する好勝負だった。

そして、メインのIWGP戦へ。戦前、永田は「名古屋のお客さんは派手な攻防を好むから、その点でどうなるか? とくに、後藤vs田中、棚橋vsTAJIRIとその好みにピッタリ合う2試合が前で続くから、そこもテーマになりますね」と語っていた。実際に、そのとおりだったように思う。

前の2試合のようにドカンドカンと客席が沸くわけではない。しかしながら、リング上に漂う緊張感は格別のもの。これは中邑Vs棚橋戦(11.8両国)とも、また違った種類の緊迫感だった。やはり、永田がIWGP王者としてX10を達成した時代に付人を務めていた中邑にとっては世代超えの闘争なのである。一方、永田からすれば戦績を超えた自信めいたものも、たしかにある。自身の17年のキャリアのなかで永田がIWGPに挑戦するのは今回が5度目。対する中邑はキャリア7年で7度のIWGP挑戦という実績を誇る。永田はそこを指して「IWGP挑戦のハードルが低くなっている。真輔が『ベルトが輝いていない』と言うなら、まさにそこに原因があるんじゃないか?」となるわけだ。

中邑のナックルパンチに対抗して、永田はムエタイ式エルボーで額を叩き割った。蹴りには蹴りで応酬するが、永田の蹴りにはいつも以上の重みを感じる。あとで知ったことなのだが、シリーズ中、中邑は左膝の靭帯を負傷していた。そこで渾身のキックを放てなかったのだ。だが、ラストシーンでふらつきながらしゃにむに左右の拳を振りまわし、ボマイェを決めた中邑から、たしかに熱い気持ちは伝わってきた。真壁との王座決定戦を制して、大谷戦、棚橋戦、永田戦と確実に一歩一歩、中邑は前進している。対戦相手の長所を学び吸収しているように見える。

次回の防衛戦は1.4東京ドーム。相手はどうやら高山善廣で決まりそうだ。これまた因縁の相手との邂逅であり、現時点で最高の挑戦者だろう。当初、1.4の対戦候補として、小川直也、ジョシュ・バーネットの名前が浮上したものの、これは噂に過ぎなかった。やはり現時点で新日本とIGFが絡むことはあり得ないのだ。さらに、武藤敬司、秋山準、佐々木健介といった名前もチラチラと聞こえてはいた。しかし、必然として収まるべきところに収まったように思う。中邑真輔の闘争の歴史とボマイェのルーツを辿っていくと、やはりK―1のアレクセイ・イグナショフとプロレス界の帝王・高山善廣に行きつくのだ。